大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

旭川地方裁判所 昭和61年(ワ)478号 判決 1987年12月22日

原告

奥野弘

原告

奥野トシミ

原告

奥野日出男

右原告ら訴訟代理人弁護士

渡辺英一

吉川正也

被告

すずらん商事株式会社

右代表者代表取締役

鈴木栄一

右訴訟代理人弁護士

米田和正

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は次の各登記の抹消登記手続をせよ。

(一) 原告奥野弘に対し、別紙物件目録(一)記載の各土地について旭川地方法務局旭川東出張所昭和六一年九月一七日受付第一七七三六号をもつてされた各所有権移転登記

(二) 原告奥野トシミに対し、別紙物件目録(二)記載の各土地及び建物について旭川地方法務局旭川東出張所昭和六一年九月一七日受付第一七七三六号をもつてされた各所有権移転登記

(三) 原告奥野日出男に対し、別紙物件目録(三)記載の建物について旭川地方法務局旭川東出張所昭和六一年九月一七日受付第一七七三六号をもつてされた所有権移転登記

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原告ら主張の請求原因

1  原告奥野弘は別紙物件目録(一)記載の各土地を、原告奥野トシミは別紙物件目録(二)記載の各土地及び建物を、原告奥野日出男は別紙物件目録(三)記載の建物をそれぞれもと所有していた。

2  別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各土地及び建物(以下「本件不動産」という)について、訴外有限会社インテリア奥野(以下「インテリア奥野」という。)を債務者、訴外遠軽信用金庫(以下「遠軽信金」という。)を根抵当権者として設定された根抵当権に基づき、遠軽信金が旭川地方裁判所に申立てた不動産競売手続(以下「本件競売手続」という。)において、被告は、最高価買受人として本件不動産を競落し、昭和六一年九月一二日その買受代金を納付して、請求の趣旨1(一)ないし(三)記載のとおり、本件不動産につき、所有権移転登記の経由を受けた。

3  しかし、本件不動産上の右根抵当権はいずれもその設定の合意を欠くもので実体上存在せず、その各設定登記はいずれも偽造文書により登記手続がなされたものであり、本件競売手続は、実体上存在しない根抵当権に基づくものであるところ、本件不動産については、本件競売手続開始前の昭和五九年七月一九日に、偽造文書により原告らから訴外株式会社湘南クレジット(以下「湘南クレジット」という。)に対し所有権移転登記が経由されたため、原告らは、本件競売手続において不動産所有者として処遇されることもなく、競売開始決定の送達を受けることがなかつたことをはじめ、利害関係人として不服申立てをする機会を一切与えられなかつたものであるから、民事執行法(以下「民執法」という)一八四条の効力は及ばず、被告の本件不動産の所有権取得は、無効というべきである。

4  また、遠軽信金は、本件不動産についての前記根抵当権設定登記がいずれも偽造文書により登記手続のなされた実体法上の根拠を欠くものであることを十分知悉していたものであるところ、買受人たる被告は、人事、資金、営業の各分野において遠軽信金と密接な関係を有する会社であつて、本件競売手続においても、本件不動産を競売のうえ早期にこれを転売して資金回収を図ろうという遠軽信金の意図を受けて同信金から資金の提供を受けて本件不動産を競落したものである。

したがつて、被告は、遠軽信金の手足ないしダミーであつて、同信金と同一体として評価すべきであり、仮にそのように評価できないとしても、右のとおり根抵当権の不存在につき十分知悉していたものであるから、いずれにしても、民執法一八四条が適用されるものではなく、被告の本件不動産の所有権取得は、無効というべきである。

5  よつて、原告らは、所有権に基づき、被告に対し、請求の趣旨1(一)ないし(三)記載の各登記の抹消登記手続を求める。

二  被告の認否及び反論

1  請求原因1、2の事実は認める。同3の事実中、本件不動産につき昭和五九年七月一九日原告から湘南クレジットに対し所有権移転登記が経由されたことは認め、その余の事実は否認する。同4の事実は、否認する。

2  原告らは、いずれも、昭和六〇年六月二〇日に、遠軽信金を被告として、それぞれ、本件不動産についての根抵当権設定登記の抹消登記手続等を求める別訴(旭川地方裁判所昭和六〇年(ワ)第二〇八号、第二〇九号、第二一〇号)を提起しており、その訴訟資料により本件競売手続が進行中であることを知つていたのに、その後も本件競売手続において不服申立をなし、あるいは本件競売手続の停止の措置をとることもなくこれを放置していた。したがつて、原告は、本件競売手続において、不服の申立ないし自己の権利の保全をする機会があつたのに、あえてこれをしなかつたのであるから、原告らの主張は理由がない。

三  被告の反論に対する原告らの認否

前項2の事実中、原告らが被告主張の別訴を提起したことは認めるが、原告らが本件競売手続が進行中であることを知つていながらこれを放置していたことは否認し、その余は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1、2の事実(原告らが本件不動産をそれぞれもと所有していたこと及び本件競売手続において被告がこれを競落して所有権移転登記を経由していること)は、当事者間に争いがない。

二原告らの本訴請求は、本件競売手続は、設定の合意を欠くまま偽造文書により登記された実体上存在しない根抵当権に基づいて実施されたものであるから、右競売手続における競落に基づく被告の所有権取得は無効であるというものであるが、民執法一八四条は、不動産競売における代金納付による買受人の所有権取得の効果は、担保権の不存在又は消滅の事由によつては妨げられない旨を規定しているから、根抵当権不存在の右主張のみをもつては、競落による被告の本件不動産取得の効果を争いえないところ、原告らは、本件競売手続における買受人たる被告に右規定の適用はない旨主張するので、その主張の当否について判断する。

1  まず、原告らは、本件不動産につき競売開始前に偽造文書により湘南クレジットに所有権移転登記が経由されたことから、本件競売手続において原告らは利害関係人として処遇されず不服申立てをする機会を与えられなかつたことを理由として、民執法一八四条の効力は及ばない旨を主張する。

買受人の所有権取得についての同条の規定するところは、債務者又は所有者(以下「債務者等」という。)において、買受人の代金納付時までに民執法一八三条一項各号に掲げる文書を執行裁判所に提出して競売手続の停止を求め、同法一八二条により競売開始決定に対して執行異議を申し立てることを怠つたことに伴う手続上の失権効に基づくものと解されるから、債務者等においてその責めに帰すべからざる事由により競売手続の開始及び進行を知ることができず、その後も競売手続の停止・取消を求めるなどの不服申立の手続をとる機会が全く存在しないまま競売手続が進行して完結したというような例外的な場合については、同条の効果は及ばないと解する余地もあり得るというべきである。

そこで、本件競売手続が右のような例外的な場合に該当するものかどうかを判断するに、本件においては、当事者間に争いのない事実並びに<証拠>により認められる事実として次のような事情が存在する。即ち

(一)  原告らは、本件不動産を、それぞれ所有しその旨の登記を有していた。

(二)  本件不動産には、昭和五五年八月から同五八年一二月にかけて、それぞれ、インテリア奥野を債務者、遠軽信金を根抵当権者とする根抵当権の設定登記がなされた。

(三)  本件不動産につき、右根抵当権設定登記後の昭和五九年七月一九日、湘南クレジット名義に所有権移転登記がなされた。

(四)  原告奥野トシミ及び同奥野日出男は昭和五九年八月一〇日、同奥野弘は昭和六〇年二月二八日、いずれも旭川地方裁判所に、湘南クレジットを被告として、本件不動産についての前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起した。

(五)  前記各根抵当権に基づいて、遠軽信金は、本件不動産につき旭川地方裁判所に競売申立をなし(本件競売手続)、昭和五九年一二月二一日に競売開始決定がなされ、同日差押登記がなされ、インテリア奥野を債務者、湘南クレジットを所有者として本件競売手続が進行した。

(六)  原告らは、いずれも、昭和六〇年六月二〇日、旭川地方裁判所に、遠軽信金を被告として、本件不動産についての前記各根抵当権設定登記の抹消登記手続等を求める訴訟を提起した(原告奥野弘につき同裁判所昭和六〇年(ワ)第二〇八号事件、同奥野トシミにつき同裁判所同第二〇九号事件、同奥野日出男につき同第二一〇号事件)。

(七)  被告は、本件競売手続において、最高価買受人として本件不動産を競落し、昭和六一年九月一二日に買受代金を納付して、同月一七日、本件不動産について自己名義に所有権移転登記を受けた。

ところで、右事実関係よりすれば、原告らが遠軽信金に対する右根抵当権設定登記の抹消登記手続請求訴訟を提起した昭和六〇年六月二〇日の時点においては、既に本件不動産につき湘南クレジット名義に所有権移転登記がなされ、湘南クレジットを所有者として本件競売手続が進行していたのであるから、原告らは、本件競売手続につき、本来、第三者異議の訴え(民執法一九四条、三八条)を提起することにより不服申立てをすることが可能であつたことになる。

不動産競売手続において、当事者となつていない第三者が、不動産の真の所有者であるとして抵当権の実体上の効力を争つて第三者異議の訴えを提起した場合においては、右訴えの提起により競売手続の進行が当然に停止するものではなく、競売手続の停止を求めるには訴えの提起に伴う競売停止決定(民執法一九四条、三八条四項、三六条)を申し立てて、右決定の謄本を停止文書(民執法一八三条一項五号)として執行裁判所に提出することを要するのであつて、右訴えを提起した者が右停止手続をとることなく放置したため、競売手続が進行して買受人による代金納付がなされた場合には、仮に抵当権の不存在又は消滅の事由があるとしても民執法一八四条により買受人の所有権取得の効果は妨げられないというべく、右の者はもはや右競売手続において自己が当事者として処遇されなかつたことを理由として同条による効果を争うことはできないと解すべきである。

また、不動産競売手続において、登記簿上不動産の所有者とされていない者が、真の所有者であるとして、抵当権の実体上の効力を争つて不服申立てをする方法としては、右の第三者異議の訴えのほか、抵当権者を被告として抵当権不存在確認請求訴訟あるいは抵当権設定登記抹消登記手続訴訟を提起することも可能であり、この場合においては、抵当権者を相手として抵当権実行禁止の仮処分あるいは競売手続続行禁止の仮処分を申請し、右仮処分決定の謄本を停止文書(民執法一八三条一項五号)として執行裁判所に提出することにより、競売手続の進行の停止を求めることもでき、そして、抵当権不存在確認訴訟及び抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟は、いずれも、具体的な競売事件の存在を前提とするものではなく、当該抵当権に基づく競売手続の開始前であつても提起することができるものではあるが、抵当権の本質的内容が換価機能にある点からすれば、右訴訟を提起する者としては当該抵当権に基づく競売手続の開始の有無について無関心であり得る筈はなく、他方、競売手続開始の有無は、登記簿を閲覧しあるいは管轄執行裁判所に問い合わせる等の方法により極めて容易に知り得べきものであるので、これらの点に照らせば、右訴訟を提起した者が、当該抵当権に基づく競売手続の開始の有無ないしその進行に無関心であつたか、あるいは前述のような競売手続停止の措置をとることなく放置したか、したために、競売手続が進行して買受人による代金納付がなされた場合には、第三者異議の訴について先に述べたところと同様に、もはや、その者は競売手続において自己が当事者として処遇されなかつたことを理由として、民執法一八四条の効果を争うことは、許されないものと解するのが相当である。

これを、本件についてみるに、原告らは前記のとおり、本件競売手続の開始後である昭和六〇年六月二〇日に、第三者異議の訴えに代えて、いずれも、根抵当権者である遠軽信金を被告として根抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟を提起しているものであるが、これに先立つ昭和五九年八月一〇日ないし同六〇年二月二八日に湘南クレジットを被告として所有権移転登記抹消登記手続請求訴訟を提起しており、原告らは、右各根抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟を提起する時点において、既に、本件不動産につき湘南クレジット名義に所有権移転登記がなされていることを了知していたものであつて、本件不動産につき右各根抵当権に基づく競売手続が開始される場合には湘南クレジットを所有者として手続が進行し、原告らは競売手続上当事者として処遇されることがないことを承知していたものというべきであるから、仮に、原告ら主張のように本件競売手続の開始を知らなかつたとしても、民執法一八四条の効果を争うことは許されないというべきである(もつとも、本件においては、原告らの湘南クレジットに対する前記訴訟のうち、原告奥野弘の訴訟は、本件競売手続開始後の昭和六〇年二月二八日に提起されており、右訴訟提起に伴う予告登記もなされている点(この事実は、<証拠>によりこれを認める。)からすれば、競売開始決定に基づく差押登記の存在により同原告が本件競売手続が開始されていることを了知していたことは、明らかというべきであり、また、原告奥野トシミ及び同奥野日出男についても、遠軽信金に対する根抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟提起時において、右差押登記を看過すことは考えられず、この点からすれば、右原告らもまた本件競売手続の開始を了知していたものと認められるのである。)。

よつて、本件競売手続において利害関係人として処遇されなかつたことを理由として民執法一八四条の効果を争う原告らの主張は、理由がないというべきである。

2 次に、原告らは、被告は遠軽信金と実質的に同一体と評価すべきものであり、本件競売手続の基礎とされた前記根抵当権が不存在であることを知悉していたのであるから、民執法一八四条の適用はない旨主張する。

しかしながら、同条の規定は、前述のとおり、債務者等の側における手続上の失権効に基づくものであり、担保権の不存在又は消滅についての買受人の善意・悪意により、所有権取得の効果が左右されるものではないと解するのが相当であるから、原告らの右主張は、主張自体失当であり、採用できない。

三以上によれば、原告らの本訴請求は、原告ら主張のその余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官海保寛 裁判官三村量一 裁判官大鷹一郎)

別紙物件目録(一)(二)(三)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例